健康長寿のバイオマーカーとなるか「血しょうタンパク質糖鎖」〜 II 〜
「健康長寿のバイオマーカーとなるか「血しょうタンパク質糖鎖」〜I〜」で、治療中の疾患のない超百寿者(105歳以上)の血しょうタンパク質の「糖鎖」の特徴は、高分岐(枝分かれが多い)でシアル酸を含む糖鎖が多いことであり、それらの糖鎖は炎症に伴って増加する糖鎖であることを述べました。では、このような超百寿者に特徴的な糖鎖は、健康長寿のマーカーなのでしょうか?これらの糖鎖を増やすことができれば、健康長寿を達成できるのでしょうか?
しかし、糖鎖はタンパク質に結合する翻訳後修飾のひとつであり、糖鎖そのものに抗炎症効果などの生物活性があるわけではありません。「血しょうタンパク質糖鎖」〜I〜 では、糖鎖をタンパク質から切り離して調べました(図1・左:グライコミクス)。しかし、糖鎖の生物学的役割を明らかにするためには、あくまでも糖鎖と、糖鎖が結合しているタンパク質 (キャリアタンパク質)の両方を調べる必要があります。
そこで、私たちは血しょうタンパク質の「グライコプロテオミクス(糖ペプチド解析)」を行いました (図1・右:グライコプロテオミクス)。グライコプロテオミクスは、血漿タンパク質の糖鎖を切り出すことなく、そのままプロテアーゼで分解し、液体クロマトグラフィーー質量分析装置 (LC-MS)で分析する解析法です。
図 グライコミクスとグライコプロテオミクス
治療中の疾患のない超百寿者(平均107.4歳)、老齢者(平均86.2歳)、若齢者(平均20歳)の血しょうタンパク質についてグライコプロテオミクスを行い、超百寿者に特徴的な糖ペプチドを調べました。その結果、ハプトグロビンの207Asnと211Asnに結合する高分岐でシアル酸を含む糖鎖(3分岐3シアル酸含有糖鎖)が、超百寿者に多いことが明らかになり、健康長寿糖鎖のキャリアタンパク質の一つがハプトグロビンであることがわかりました (Biochim Biophys Acta, 1862, 1462-1471, 2018)。ハプトグロビンは,炎症によって増加する急性期タンパク質で,ヘモグロビンと結合して肝臓でのヘモグロビンの分解に関与することが知られています。
では、特定の部位に高分岐でシアル酸を含む糖鎖が結合しているハプトグロビンは、一体どんな生物活性をもつのでしょうか?さらに研究を進め、健康長寿のメカニズムの解明や「健康長寿糖鎖マーカー」を利用した健康管理システムへの応用を目指します。