2-2. 血しょうタンパク質糖鎖から健康長寿の秘訣を探る(糖鎖解析)

健康長寿のバイオマーカーとなるか「血しょうタンパク質糖鎖」〜 I 〜

タンパク質は、細胞を形づくる役割だけでなく、生きていくための「さまざまな活動を行う」という重要な役割を担っています。タンパク質が「きちんと働く」ためのしくみはたくさんあるのですが、その中の一つが糖鎖修飾です。糖鎖修飾は、「糖鎖」という言葉から想像されるとおり、タンパク質に結合している「糖がつながってできた鎖」のことをいいます。

タンパク質の糖鎖修飾は、つながっている糖の種類やその長さ、あるいはつながり方(分岐するかどうか)などがさまざまで、とても多様な構造をしています。また、遺伝子情報(鋳型)を元に作られるタンパク質とは異なり、さまざまな糖転移酵素による酵素反応によって作られます。そのため、病気や栄養状態の変化、あるいは生活環境の変化などに応じて構造が変わることが知られています(図1)。たとえば、血漿タンパク質の糖鎖はがんに罹(かか)ることによって変化するため、がんの診断マーカーとなることが知られています。

SSC 糖鎖図1

図1 タンパク質の糖鎖修飾は健康状態を反映して変化する

 

そこで私たちは、「健康長寿」に特徴的な糖鎖があるのではないかと考えました。ヒトの老化や健康長寿には、遺伝的要因だけでなくさまざまな環境的要因(生活習慣、運動習慣、社会環境など)が関わっています。そこで、このようなさまざまな環境的要因を反映して変化する糖鎖構造を調べることで、「健康長寿の秘訣」に迫れるのではないかと考えています。

慶應大学百寿総合研究センター(広瀬信義博士、新井康通博士)との共同研究で、治療中の疾患のない超百寿者(105歳以上)の血しょうタンパク質の糖鎖解析(グライコミクス)を行い、若齢者(20歳〜30歳代)、老齢者(70歳代)と比較しました。若齢者、老齢者、超百寿者の血漿タンパク質から糖鎖を切り出した後、液体クロマトグラフィーー質量分析装置(LC-MS)を用いて、糖鎖構造を解析しました(図2)。その結果、超百寿者では高分岐(枝分かれが多い)でシアル酸を含む糖鎖が多いことが明らかになりました(図3)。高分岐でシアル酸を含む糖鎖は、炎症に対応して増加する糖鎖であることが知られています。そこで、炎症マーカーであるCRP (C-reactive protein)、IL-6 (interleukin 6)、TNF-a (tumor necrosis factor- a)を調べたところ、超百寿者では若齢者や老齢者よりもこれらの炎症マーカーが増加していることがわかりました。つまり、超百寿者は若齢者や老齢者よりも炎症が亢進しており、それに対応して高分岐でシアル酸を含む糖鎖が多くなったのではないかと考えられます。私たちは以前、超百寿者の血漿タンパク質を解析し、超百寿者では若齢者に比べて酸化ストレスが高まっていることを明らかにしました(「タンパク質からみた健康長寿の秘訣」)。炎症は酸化ストレスを発生させるので、超百寿者での慢性炎症は、まさに酸化ストレスが高まることになります。つまり、超百寿者たちも、加齢に伴う炎症や酸化ストレスから免れているわけではなく、糖鎖の構造変化などを通して慢性炎症に対応しているところ、すなわち歳をとっても「ストレスにきちんと対応できる」ところに健康長寿の秘訣があるのかもしれません (PLos One, 10, e0142645, 2015)。
SSC 糖鎖 図2
図2 LC-MSによる糖鎖解析.1人の血しょうから50種類の糖鎖を検出した。

SSC 糖鎖 図3
図3 超百寿者に特徴的な糖鎖構造.超百寿者では高分岐でシアル酸を含む糖鎖が多かった。